寒国しろくまと夢のたび

カナディアン夫と暮らすトロント在住フォトグラファーの思考録

クオリティー・オブ・ライフ

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今年の夏はCNEに4度も行った。 

CNE(Canadian National Exhibition)とはいわば期間限定の巨大特設遊園地のようなもので、アトラクションやゲームブースの他に各建物内でライブミュージックや手品、スケートショー等のイベントも楽しめる。ものすごい数の飲食店が軒を連ね、ドーナツバーガーやメープルベーコンパンケーキなどよく分からないものがけっこうな価格で売られているのだが、お祭りマジックにかかっているトロントの人達は次々に店をはしごしながら様々な種類の食べ物を試していた。なんだかみんな楽しそうなので、見ているこちらも「まあいいか、お祭りだし」となる。

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私はというとそれほど乗り物やゲームに興味がないため、大半の時間はInstax-mini8や自前の一眼レフでバシャバシャと写真を撮り歩いて満足していた。

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アメリカ映画に出てくるようなノスタルジックな風景がたまらない。カラフルなコットンキャンディ屋やキラキラネオンが施された乗り物や看板。アメリカンドッグをがしがしかじりながら歩くちゅる毛の男の子や、軽快にゲーム実況をするブース係員と戦いを見守る観衆。いやあ、ほんと、フォトジェニック。基本的にデジタルを使う私も、今回は「フィルム最高。フィルムカメラほしい。」とわりと本気で思い、まずは小学校の時使っていた昔懐かしいインスタントカメラを買うことから始めようと思う。

 

 

今日は久々に先生を訪ねた。

わたしがワーホリ時代にTAとして働いていた日本語学校の先生で、辞めてしばらく経った今も度々ご自宅にお邪魔してお茶を飲みながらお喋りしたりしている。

先生はいつもいろんな話をしてくれる。たいていの話はまったくわたしにとって未開拓の分野で毎度興味深く、「はー。へー。ほー。」と無知丸出しの相槌を度々挟みながら、しかし非常に楽しく拝聴する。今日は「今日の日本人ワーホリ女子の実態」を聞き仰天した。売春のために勉強という名目でカナダへ入国し、一カ月ほど学校で英語を学んだ後に会社に入り外国人相手(とくにアジア系)にそういうサービスをして収入を得、儲けたらさっさと帰国するという若い女の子が増えているらしい。他にもホメオパシー(同毒療法・同種療法)で体調がよくなった話や、報道関係の会社をつい最近退職し、ヨガのインストラクターになるために日々筋トレをする70歳のお隣さんの話などを聞いた。

わたしも先生も大好きなクリームアールグレイを2杯ほどいただき、せっかく天気がいいからとビーチ沿いのストリートを散策した。

先生は、素敵なお店や美味しいものをよく知っている。今日は彼女のお気に入りのアンティークショップ2軒と、通っているというお茶の専門店へ連れて行ってもらった。先生はアンティークショップにあったイタリア製のお盆を手に取ってしばらく眺めていたが、裏にMade in Italyと小さく書いてあるのが気に入らなかったようで戻していた。「Made in Italyって、いかにもお土産用に大量に作りましたって感じじゃない?」と言って笑っていた。二件目のアンティークショップで見つけた薔薇柄のティーポットとカップがそれはそれは可愛らしく、2人であれこれ言いながら眺めた。

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お茶屋さんに置いてあった先生おすすめのピーチジャムを買い、もう一度お家へ戻って京都一保堂のお抹茶と和三盆の砂糖菓子をいただき、今回はお開きとなった。「来週から忙しくなっちゃうけど、しばらくして落ち着いたらまたおいで。」と先生。とても充実した午後だった。

 

毎度先生を訪れるたびに考えるのは、「上質な生活」について。先生は自分の好きなものに囲まれて生活している。家の食器や家具などについて話す彼女を見ていればすぐにそれが分かるし、聴く音楽や鑑賞する美術作品なども「なんとなく」ではなく「多くの中から選んだ、洗練されたもの」だ。お気に入りのお店のタルトを食べるために店の近くに引っ越したとか、この小さな八百屋の椎茸がトロントで一番美味しいだとか、そうした小さなこだわりと、それを探し出す努力とその積み重ねを先生は考えずとも日々自然にしているのだと思う。日々の小さな選択は、自分にとって居心地のいい空間・環境を作り出す。そこに身を置くことで、間違いなく生活は豊かになる。先生に会うとそれを感じる。そして自分もそうなりたいと強く願う。

先生は、欲しいなあ~と思っていた希少なアンティークカップが数週間後に近所の店に破格で出現するというのを2度経験している。そして先生の周りはいつも華やかで多彩な人たちで溢れている。いわゆる「引き寄せ」ってやつだ。素敵な人には同調して素敵な人や出来事がやってくる。逆も然り。最近特に、これってほんとだなと思う。

 

そんなクオリティーライフとはいろんな意味でほど遠いわたしの新婚生活だが、あきらめるのは早い。日々の選択を少しずつ変えていくことは可能だし、あらゆるものにアンテナを張ることは今すぐにでも始められる。2人で引っ越したら可愛いティーカップを買うというささやかな目標もできた。

こういう人との出会いはほんとうに大切にしたい。先生との時間は上質な学びの時間である。正直に告白すると、先生といると自分があまりにも無知なことを毎度思い知るので、感情の中に少しだけ「不快」が混じる。でも憧れの人との時間に感じる不快は大きな成長につながることをわたしは知っている。もっともっといろんなことを知りたい。好きなものや人に囲まれて、心豊かに暮らしたい。そう思わせてくれる人に出会ったことに、心から感謝する。