弟たちがカナダへ。彼らとの2週間を経て感じたこと。
冬になろうとしている。
久しぶりの更新。
10月の初めからついこの間まで、実の弟がトロントに来ていた。
1つ下の弟は2年ぶり、5つ下の方はもう4年以上ぶりだった。いつの間にかお酒も飲めるようになっていて驚く。月日が経つのはこんなにも早い。
カナダに初めて来てからほぼ4年、いろんなものを見たし、経験した。4年前のわたしとは明らかに大きく変わっている。
弟たちは、英語を喋るわたしを知らない。結婚して、パートナーと暮らすわたしを知らない。異国の地でいろんな年齢、人種、性別の人たちと働き、お酒を飲み、語り合うわたしを知らない。以前と全く違うライフスタイルを送る姉を、弟たちはどう思うのだろう、と、空港へ向かう電車の中で思う。
弟たちと再会し「久しぶり」とか「入国審査はスムーズに終えたか」とか、少し言葉を交わすうちに、ああこんな感じだったと懐かしい気持ちになった。4年間という長い時間はなかったんじゃないかと勘違いしてしまいそうだった。彼らとはものすごく訛った方言で話す一方、横にいる夫とはペラペラと英語で話す自分がなんだか不思議だった。弟たちはそんなわたしを見てなんとも言えない顔をしている。そりゃそうだよなあ。
いつの間にか、お姉ちゃんはこんなに変わっちゃった。
夫もわたしも2週間のバケーションをもらっていたので、毎日弟たちと出かけた。
いろんな国の料理を食べに行った。日本では見られないグラフィック・アートを見たり、古着やレコードを見て回ったり、友だちの運転で紅葉を見に行ったり。
何度も行った場所でも、弟たちになったつもりで、新鮮な気持ちで自分の住む街を歩く。
車が右側通行であることや、リスがそこらじゅうにいること、高い木々と色とりどりのメープルの葉、様々な人種の人たちが各々の言語を話しながら行き交っていること。いちいち感動する彼らを見て、わたしも当たり前になりつつあった日常にハッとする場面が何度もあった。そうだ、わたしも初めて来た時こうだったな。
彼らが来て強く感じたこと。
わたしがカナダに暮らしていること。
毎朝起きたらわくわくする景色が広がっていること。
素敵なカフェでコーヒーを飲めること。
人目を気にせず、ゆる〜く仕事をしながら自由にのびのびと生きられること。
あらゆる人種の、国の人たちとコミュニケーションを楽しめること。
素晴らしい夫や友人に恵まれていること。
こういうことすべて、当たり前じゃないんだ。
特別で、愛おしくて、かけがえのないものだった。彼らと過ごして以前よりさらに、自分の置かれた贅沢すぎる環境に感謝の気持ちが湧いてきた。
「ねえちゃん、本当にカナダに住んでいるんだねえ。」
1つ下の弟が不思議そうに、でも少し嬉しそうに言った。
そうだった。わたしはカナダに住んでいる。
22歳の時、海外に住みたい!と急に思い立ち、大学を卒業してから家族の助けをかりてトロントへ飛び立った。
夫は世話好きなので、2週間ほんとによく彼らの面倒を見てくれた。彼の人柄もあり、2人とも夫に完全に心を許し、分からないなりに一生懸命英語で話そうとしていた。
1つ下の弟は、昔からおねえちゃんっ子だった。どんなにいじめられても(昔のわたしの暴君ぶりはほんとうにひどかった)、おねえちゃんおねえちゃんと後ろをついてくる子だった。
小学生の頃、わたしの男友達がおうちに遊びに来た際に、おねえちゃんを守る!という謎の正義感からか、インターフォン越しにその友達を追い払おうとしたこともあった。
わたしは特に彼らの前ではほんとうに男勝りな強い姉だった。小学校の時はスカートを履いたことがなかったし、毎日男の子とドッジボールをして遊んでいた。そしていつも、自分にも彼らにも厳しかったのを覚えている。
それもあって、そんなわたしが今男性(しかも異国の人)と結婚して一緒に暮らしていることや、愛情表現豊かな夫に自然に応えているこの感じが、少し照れくさかったりもした。
けれど彼らは出かけるたびに嬉しそうにわたしと夫のスナップ写真をこっそり撮っていた。
わたしの幸せを、2人とも祝福してくれているように思えて素直に嬉しかった。
2人の弟と久しぶりに会ってみて、やっぱりここ数年で大人になったんだなぁと思う反面、変わってない部分にほっ、と温かい気持ちになったのも事実だった。
彼らの素直さ、素朴さ。
人の気持ちを慮れる、純粋で優しいところ。
分からないことを知ろうとする姿勢、吸収力。
全然変わっていなかった。
姉弟っていいな。この子たちと家族でよかったって心の底から思った。
末っ子は、兄より9日ほど長く滞在した。その間にわたしぬきで夫と彼の友人達from Canadaとビリヤードをしに遊びにいったり、買い物に行ったりしたこともあった。
末っ子は保育園の時からとにかくスポーツ一本で生きてきて、自分はもちろん、周りにも海外に興味のある人はいなかったようだった。学生時代、一番の苦手教科は英語だったと言っていたくらいなのに、帰る頃には「僕ももう一度英語勉強してみたい」とわたしに話してくれた。
この旅行中に、彼の中で何か感じたことがあったんだろうなぁ。
世界を見るって、自分の中にあったいろんなものがガラガラと音を立てて崩れていき、同時に新しいものが少しずつ建設されていくこと。
この感覚ってやっぱり実際に目で見て経験してでしか、分からないんです。握りしめていた価値観が一気に崩壊する感じ。崩壊する時って、ワクワクするんです。
だからこそ、彼らがこのタイミングでカナダに来たことは必然であるとわたしは思っている。わたしや夫やカナダの人たち、この国の文化を通して感じたことが、これからどう彼らを創っていくのかがとても楽しみだ。
気温はすでに0度を下回っている。
今年の冬は、どんな楽しいことをしようか。